チェロを含むヴァイオリン族の楽器には概ね4本の弦を張ります。
基本的に弦は同じ種類で揃えた方が良いのですが、幾つかの種類の弦を混ぜて使う方も多いです。高音が出やすくなったり低音が力強くなったりする効果を狙っての事で、それはそれで経験や知識が必要な事ではあります。
弦のメーカーは通常、シリーズ毎に4本のテンションを揃えて出しています。均一なテンションにする事で弦が駒の両足にかける力を均等に保つためです。
実際左右のテンションが違う弦を長く張り続けた結果、F字孔の左右で段差が出来てしまっていたり、不自然に強い力がかかって曲面の頂点(駒の下)が平になったり凹んだりしている楽器を良く見ます。
※ヴァイオリン族の楽器のボディは、表板と裏板が球面構造になっている事、瓢箪型の側板などによってバネ力を持っています。これが一点に集まる事で、あの薄い板が4本の弦の強力なテンションを支えているわけです。楽器のどこにも負担をかけないこの構造こそ、他の楽器には無い200年300年の長い現役生命の秘密。
4本の弦は自動車のタイヤと同じに考えて良いと思います。
左右に違うサイズのタイヤを履けば、左カーブはとても巧く出来たり、小回りが利いたりするかもしれません。でもそれで車が良くなったと思うのは錯覚で、実際には真っすぐ走りにくいばかりか自動車のボディに常に負担をかける事になってしまいます。
例えその自動車があまり小回りが利かなかったり、旋回スピードが物足りなかったりしてもそれはその車の性能で、タイヤのチョイスに頼る事では無いですね。
4本同じ弦を張ってどこかの音域や音色に不満があったら、それは楽器の能力かコンディションの問題で、弦のチョイスで解決するべき問題では無いというのが僕の結論です。
ただチェロ界では余りにも弦を混ぜる方が多いので、弦メーカーも良心を捨てたのか、最初からテンションの揃わないセットを出しているところもあります。また楽器の弾力に不似合いな質量を持った特殊素材による弦も避けたいところです。
大丈夫な弦もそうでない弦もたくさんあるので、ここで全部を批評するのは無理ですし、僕の社会的立場にも危険が・・・。
僕が常用する弦を紹介するだけにとどめておきましょう。
スチール弦:スーパーフレキシブル,スピロコア(テンションは揃っていればどれでもアリですが、一部低弦のみ発売されている特殊なものは避けるが吉。)
ナイロン弦:ドミナント
ガット弦:コルダ,ゴールド
弦を混ぜたり不自然な素材を使っていたりすると、特定の弦に大きな負担がかかります。ですからとても短い周期で弦を換える方も多いです。楽器がきちんとした状態で同じテンションの弦を張っていれば、4本の弦に均等に負担がかかるので1年半から2年は持ちます。ただまともな弦というのは必ず馴しに時間がかかります。短くて2週間、長くかかる弦だと2?3ヶ月。そこからがその弦の本領です。
でもこの目まぐるしい現代では音楽家もそんな悠長な事は言っていられません。だからこそ楽器に負担がかかろうが、弦の寿命が短かろうが必死の苦労をしてチョイスするわけです。
ここで弦楽器を聴くお客様にお願い。
アコースティックな弦楽器は現代でも聴ける文化遺産です。
これを演奏する演奏家はCDやジュークボックスではありません。
弦を張り換えたばかりだったり、弓の毛を換えたばかりだったり。温度・湿度にも敏感に反応する楽器を相手に奮闘しているのです。
常に完璧な演奏を求めない事。
特に僕には・・・。
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